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精肉店としての歩み

公開日: : 2021/10/03 未分類

滋賀県で精肉店をやっているなら「近江牛」の看板で商売したい。三重県なら松阪牛、兵庫県なら神戸牛というように、地元の銘柄牛を販売してこその専門店だ。しかし、最近ではスーパーでも近江牛を販売している。

僕が物心ついた頃から、滋賀県のスーパーと言えば「平和堂」一択と言っていいくらい各市町に必ず一店舗はあった。いまもその状況は変わっていない。身内を辿ればだれかが平和堂関連にお世話になっているほど地域に密着している。

20年以上前、精肉は、輸入牛肉やホルスタイン、交雑牛をスーパーが、近江牛は精肉店が販売するという棲み分けができていた。しかし、いつしかスーパーでも近江牛を販売しはじめ、これは大変なことになるぞと危機感を覚えた。それからしばらくして、商店街は力をなくし、精肉店もスーパーに追い込まれ吸収されていった。

スーパーで近江牛が買えるなら、わざわざ精肉店へ行く必要がない。精肉店へ行くということは目的買いなので勇気がいる。その点、スーパーは気負わなくていい。

精肉店が淘汰されていくなかで、サカエヤは生き残った。それは、スーパーで売られている近江牛とサカエヤの近江牛が違うからだ。とはいうものの、一般の方から見れば近江牛は近江牛。プロの方でもよほどのこだわりがない限り、わざわざサカエヤの近江牛に興味を持つ人は少ない。そのあたりのジレンマで悩んだこともあったが、少数のお客様に支えられて今があることに感謝しかない。

さて、近江牛の仕入れ方法だが、食肉卸問屋から仕入れるのが一般的だが、僕のようにセリで購買したり、相対といって生産者と直接やり取りして仕入れる場合もある。しかしながら、セリは枝肉を見極める目利き力、相対は生産者との信頼関係がないと難しい。

牛肉だけでなく、魚も野菜も馴染みの生産者から仕入れることがブランディングにもなり、お互いが協力し合って切磋琢磨している姿が評価される傾向にある。

生産者ブラウンドのことは、書いても書いても書き足らないので、また別の機会にじっくり書くとして、僕も5年前までは、特定の生産者から近江牛を仕入れていた。メリットもあるがデメリットもある。そして、良くも悪くも「付き合い」が生じてしまう。今回は購入価格より、あきらかに品質がよくないと思っていても付き合いで買わざるを得ないこともある。付き合いも長くなると「なあなあ」の関係になったり、「ま、いいか」的なよくない関係性がブレを生じることにもなり得るのです。

地産地消にこだわっている場合もこれによく似ている。それでも使いつづけるのは、地のものを使いたいからという信念だと思うが、果たしてそれでいいのだろうか。僕はおいしくないと意味がないと思っている。

言葉に語弊がありますが、分かりやすくという意味で、おいしくない滋賀県産の食材を使うより、おいしい県外産の食材を使うほうが良いと思っている。もちろん、おいしくないものをおいしくする技術があれば別だが。

僕は「手当て」という一手間を必ず仕事のなかに入れるので、品質に関係なく、ある程度まで引き上げることができる。

そういった技術は業界でも認めたくないので反発をくらうこともありますが、それは短いものさしで測っているからであり、型に囚われたことばかりしているから進歩がないのだと思います。

牛肉も魚も手をかければかけるほど、その個体のポテンシャルを引き出せます。良い仕事をするには、邪魔くさいことをどれだけやるか、それを楽しいと思えるかどうかだと思うのです。

手当てのことは今までたくさん書いてきましたが、サカエヤの仕事にとって手当ては重要で、若いスタッフに引き継がせたい技術なのです。

手当てとは、本質が覚醒する手法のことです。

※文中でおいしい、おいしくないと表現していますが、あくまでも、わかりやすくという意味で使ってます。

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