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肉屋としての僕の考え方

和牛の最高峰は言わずと知れた「A5」ですが、A5のなかでも5段階あって8〜12の数字で区別されます。上にいくほど評価の良い肉なので、「A5-BMS12」が、最高峰の霜降り牛肉ということになります。※BSMは、ビーフマーブリングスタンダードの略。

生産者のことを「牛飼い」と言いますが、牛飼いはBMS12を目指して肥育します。経済動物である以上、少しでも高値で買ってもらうことを最優先します。だから、A2やA3を目指して肥育している牛飼いはいないと思います。

牛飼いは、繁殖農家から少しでも高く買って、肥育農家は少しでも高く売りたい。そのためには、高くても頑張って優れた血統の子牛を買い付けて、A5-12を目指すわけです。それが和牛農家の繁栄に繋がることは間違いのないことです。

牛飼いは、牛を出荷して仕事が終わります。枝肉になってからは、問屋や仲買など卸し売り業の仕事になりますが、その先には、飲食店や消費者がいます。ここで見誤ってはいけないのが、牛飼いには牛飼いの考え方があり、卸売りには卸売りの考え方があります。その先の食べる側には好みがあります。

僕は精肉店なので専門は小売です。でも、卸売りも兼ねているので、哲学は貫きつつ、お客様の好みに合わせた仕事をしなくてはいけません。

小売は、幅広いお客様が来店されるので、肉種も価格も満遍なく。つまり霜降り肉から赤身肉まで、経産牛からA5まで販売しています。そのなかから、お客様は価格で選ぶのか、好みで選ぶのか、それが小売です。もちろん、枝肉の状態でしっかり目利きして、その後は、僕の手を通ったものだけを販売しています。

販売の際には、対面ではなくスタッフが横につき、アドバイスしながら購入していただきます。スーパーの売り場ではなく、目的買いで来店されるので、スタッフはある程度の知識が必要です。そこが専門店としてのプライドでもあり、商品に対する大いなる自信につながっています。

一方、卸売りは、不特定多数への販売ではなく、一対一の勝負なので、シェフの好みに合わせて最善の肉を選ぶことが仕事であり楽しみでもあります。そのためにはシェフの考え方を理解し、人として尊敬できなければ良い仕事はできません。

精肉店として効率の良いやり方、僕の考え方を少しだけ話しますと、A5の肉が圧倒的に仕事しやすいし利益も出しやすいです。もちろんA5-12ともなれば買値も高いです。それでも使い勝手は抜群に良いし、仕事が楽で気持ちがいい。

例えばA2やA3のクラシタ(肩ロースのこと)を商品化するとき、ネックに近づくにつれ、高価格帯の商品は作れないので、せいぜい切り落としかミンチとして販売するしかないのです。しかし、A5ならネック付近でも、中価格帯のすき焼きやしゃぶしゃぶ用として商品化できるのです。この差は大きく、端材の処理に困らなくてすみます。つまりロスが少なく利幅が増えるということです。

ただ、僕が好んでやっているのは、評価の低い牛や流通されていない牛など、見向きもされない牛に光を当てることです。そのためには、利益よりもおいしくすることを最優先に考えないといけません。このバランスが難しい。悩みながらも、結果がでたときの喜びは職人冥利に付きます。

もちろん、評価されない牛を扱っているわけですから、良いことばかりではありません。目立つと同業者に妬まれたり、薄っぺらい知識のフーディに批判されたり、そういうのをすべてひっくるめて、覚悟が必要です。

とはいえ、利益じゃないところで、下手すれば持ち出しが多く、理解されにくいかも知れませんが、牛飼いと肉屋と料理人が一緒になって取り組んでることですから、これもひとつの形であり、僕は夢のあることをやっていると思っています。

人が肉を選ぶのではなく、肉が人を選んでもいいんじゃないかな。難しい肉に向き合うと、ついそんなことを考えます。真っ赤で硬い肉が好きな方もいるだろうし、サシが多いA5の肉が好きな方もいます。どっちが良い悪いではなく、好みであり、その時の気分であり、演歌が好きかロックが好きか、そんな感じです。

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