ドライエージングビーフを極める
公開日:
:
2011/10/07
熟成肉
「牛肉は少し寝かせたほうがいい」
よく聞く話ではあるがいったいどういうことなのか?
と畜後は死後硬直により肉は硬くなるので
血液、体液からくる生臭い香りがします。
数日から1週間もねかせれば肉質は柔らかくなり
風味ある牛肉になるというわけです。
この段階を「熟成」と呼び、商品名にも熟成を入れたりしますが
(例えば、熟成近江牛とか)
私がこのブログで度々書いているのは「ねかせる=熟成」ではなく
「エージング=熟成」のことで、今日はそのこと(熟成肉)について
詳しく書いてみたいと思います。
熟成には、ウェットエージングとドライエージングの2通りがあります。
日本では時間と場所をとらないウェットエージングが主流だが
果たしてこれを熟成肉と呼ぶのかは疑問だ。
というのも、牛肉の流通は枝肉よりも真空パックにしたブロック肉が主流だ。
真空パックは枝肉を捌いた状態のナマではないので、日持ちするという利点がある。
ところが、いくら真空パックで持ちがいいからといっても、
日増しに商品は劣化し賞味期限前になるとドリップが大量発生して、
それが肉や脂に浸透し味が損なわれる。
年配のお客さんがこんなことをよく言います。
「むかしの肉はうまかったのに、いまの肉はうまくない」
まさしく真空パックでの流通が主流になったことが原因でしょう。
むかしの肉屋は、店内に大きな枝肉を吊るしてオヤジが捌きをしていたものです。
肉を買いに来た近所の客がそれを見ながら、分かりもしないのに
大将、ええ肉はいったなぁ、なんて光景が当たり前でした。
いまは食品衛生上の問題もあり、年々そういった光景は見られなくなり、
それと同時に、捌きをする職人も減ってきたのが現状です。
時代の流れというものでしょうか。
さて、私が行っているドライエージングは、肉の塊(枝肉状態)を冷蔵庫に置き
空気に触れさせながら熟成させる方法です。
それにより、肉の水分がとび、歩留まりは悪くなるが、肉質は柔らかくなり
まさしく、むかし食べた懐かしい味が再現できるのです。
しかし、言うのは簡単だがこれがむずかしい。
冒頭1枚目の写真は、枝肉のままドライエージングしているのだが、
2枚目の写真は、部位別にドライエージングしている。
棚の1段目は熟成10日目のリブロースだ。
2段目は、すでに5週目に入ったのでリブの断面はカビがビッシリ生えている。
カビというと、あまり気持ちのよいものではないが
このようにキレイにカビが生えるとわくわくするのが熟成肉だ。
(カビをキレイと表現するのは微妙だが・・・)
においも独特で、人間には無害の最近ラクトン(乳製品などに含まれる)という
甘い香気物質をつくる。
酸素がないと起こらないこの変化はドライエージングの最大の特徴と言えます。
簡単に言うと、むかしの肉屋のにおいです。
(分かる人には分かると思うが)
過去にも同様のことを書いてはいるが
少しおさらいしてみると、Dry Aging(ドライエージング)とは乾燥熟成のことで、
その名の通り乾燥状態を保管庫内に維持し熟成させるという意味だ。
重要なのは、「温度」 「湿度」 「風」 この3つ。
温度は0度に設定し、極力冷蔵庫は開け閉めしない。
本格的にドライエージングに取り組もうとすれば
結構な設備資金が必要となる。
外部の空気を入れて内部の空気は出さないように設計している。
次に湿度管理だ。
80~90%に設定して肉と菌の状態をみながら調整していく。
これを見誤ると、熟成ではなく肉は腐ってしまうのだ。
ちなみに、中途半端な知識と設備で熟成肉にチャレンジすると
ほとんどの場合が腐敗してしまう。
これを熟成と勘違いしている方もいるので注意が必要だ。
最後に、風だ。
温度と湿度を考慮し、まんべんなく風が行き渡るよう庫内の隅々にファンを設置している。
ドライエージングに適している牛肉は、私の経験からいくと和牛ならA2、A3といった
グレードの低い、どちらかといえば赤身の肉が適している。
経産牛なんか最高だ。
やったことはないがホルスもいいと思う。
そもそもエージングすると歩留まりが悪くなるどころか、
へたすれば半分ぐらいになってしまうので、グレードの高い肉は採算があわないだろう。
やるとすれば、肉屋やオーナーシェフが趣味でやるか、
よほどセレブな顧客を抱えている場合だけだろう。
ただ、1ヵ月も熟成させると、筋肉繊維が崩壊して柔らかくなるので
サシの強い肉だと、柔らかくなりすぎて肉の味がしなくなる可能性がある。
実際にA5クラスの肉をエージングしたことがないのであくまでも推測だが。
写真の肉は、但馬系の純粋近江牛で熟成期間は40日。
心斎橋のそむりえ亭樋口さんにお願いして調理してもらった。
何も言わずに送りつけたのだが、40分かけてじっくりローストしたとのこと。
さすが樋口さんだ。
ワインのみならず肉にも精通している。
熟成肉は水分がとんでいるので火入れが肝となる。
つまりは、火の通りが遅いのだ。
肉質は、予想以上に驚くほど柔らかくなっていた。
ジューシーが確認できたのは、時間の経過とともに
肉の表面に付着した菌と微生物のチカラで収縮した繊維が
ある程度伸びたために起こるものだと推測できる。
とにもかくにも、熟成肉は奥が深い。
そしてなによりも美味である。
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