融点が低い牛肉は本当にあっさりしているのか?
12月も後半となると忙しさが加速するのだが、さすがにこの時期はギフト需要と年末年始に食べるご自宅用のご予約が多い。しかも高額な肉が動き始めるので仕入れも気合が入る。
写真は、当店で一番高価なすき焼き肉だ。ステーキ用のサーロインから余分な脂をトリミングしてスライスするのでどうしても高くついてしまう。
もちろん、その分、味は折り紙つきのおいしさだ。
サシの入った肉はたくさん食べられないという方にもお喜びいただいている。
こちら↑は、近江牛ミスジだ。
1頭からわずか5.0kg程度しかとれない希少な肉として、テレビや雑誌などに登場する機会が多い肉でもある。故にご存じの方も多いのではないだろうか。
「幻の部位」などと呼ばれているらしいが、売り方の妙というか煽りすぎのように思う。
だいたい、牛1頭、どの部位をとっても細分化していけばすべて少量しかとれないので、そういう意味では、牛の部位はすべて幻ということになる。
イチボ、マルシン、ササミ、カイノミ、クリ・・・キリがない。
ミスジはサシが入りやすく、格付けの良いものになるとまさしくとろけるような食感が味わえる。
しかし、いくら肉が好きでもサシの多い肉はたくさん食べられない。
もちろんいくらでも食べられるという人もいるだろうが普通は食べ進むうちに重くなるものだ。
世界からみれば日本人の霜降り信仰は有名な話だが、牛肉関係者のメス牛信仰もかなりのものだ。
「メス牛は脂の融点が低いからサシが入った肉でもあっさりしている」
これをウリにしているショップ(リアル、ネットともに)をよくみかける。
セリでもメス牛しか買わない購買者も多くいるし、同じ格付けでもオス(去勢)よりメスのほうが高く落札される。松阪牛のようにメス牛限定のブランド定義もある。
人間の世界はこれからは女性の時代と言われているが、牛の世界では昔から女性上位なのだ。
荒々しいオス牛は去勢して飼育しやすいようにするのだが、生産者も得意不得意があり、オス牛ばかり育てている方もいれば、その逆もあり、経済効果を考えると大きく育つオス牛のほうが良いと言われている。
確かに融点が低いメス牛の肉のほうがあっさりしているかも知れないが、私は、メス牛でもオス牛でもそれほど大差がないと思っている。料理法にもよるが、少し乱暴な言い方をすれば、サシは脂なので食べ過ぎれば胃もたれしてあたりまえなのだ。
さて、おいしさの話をすると、不飽和脂肪酸含量が高いほど、融点が低い傾向があり、特に不飽和脂肪酸の中でも、オレイン酸の含量が多い牛肉は美味しいと言われている。
オレイン酸は旨味に関係しているので、長野県の信州プレミア牛のように計測して数値化したものをブランド化している牛肉もある。
ところで、融点は、ご存知のように脂肪が溶け出す温度のことだ。つまり、口に入れると脂が溶けて口当たりが良くなり、それが旨味となり和牛独特の香にもつながる、ということで、ここから脂肪酸組織にまで発展させて書きたいところだが、なんちゃって研究者のようになってしまうので小難しい話はここまで。
みなさんご存じのユニクロは、ヒートテックで衣料の世界で革命を起こしました。
私もヒートテックのおかげで朝夕の外仕事は大いに助かっています。
下着類からフリース、さらにジーンズに革ジャンまで驚くような価格で豊富な品ぞろえは私たち買い物客を飽きさせません。
ユニクロは、革ジャンやジーンズはあえて耐久性を捨て去ることで安価を実現しています。そして「長持ちしません」と明言していることこそがユニクロの強みなのです。
ユニクロに見習って、「サシの多い肉はくどいです」と明言したところで、それが強みになるどころか売れなくなって困ってしまう結果になりそうだが、じつは提携牧場との10年にわたる取り組みは「牛が何を食べたらその肉がおいしくなるのか?」ということを一生懸命やっていて、プレミア近江牛を作り出すことにひとまず成功したのだが、2013年10月からコンスタントに出荷できるよう現在準備を進めている。
食べたものがそのものの味になるので、国産飼料にこだわった。さらに、作り手から直接手渡しで買える飼料だけに厳選し、理想として健康で赤身の肉に仕上げることを目標にした。とはいってもカタロースやバラにはどうしてもサシが入ってしまう。サシは血統によるところが大きく、だらかこそビタミンコントロールをせずに自然のまま飼育することが牛にとっても人にとってもストレスフリーな環境が作れるのではないかと思っている。
結果として、大学の先生にも参加いただき、官能検査も実施し、サシがある部位でも比較的あっさりとした風味ある肉に仕上がった。
しかしだ、メス牛に粗飼料を60%以上与えて育てたにも関わらず、遺伝的にサシが入りやすい血統ということもあり(格付けA4、BMS5)くどいという意見もあった。
肉牛は経済動物であり、生産農家の経済性を考えると山盛りサシを入れる肥育方法と安価な飼料、それも輸入物の飼料に頼らざるを得ない。それが日本の畜産の現状なのだ。
12月は全国的に相場が上がる。ちなみに近江牛の相場は数か月前から狂ったような高値で生産者以外はだれも得をしない状況だ。
バブルのような現状に一喜一憂する生産者を見ると考えさせられることもたくさんあるが、年末年始の仕入れ状況はこちら(→クリック)からご覧いただけますので、ぜひ私たちが取り組んでいる美味なる牛肉をご用命くださいませ。
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