大晦日は熟成肉を食べながら紅白をみます。今年も1年ありがとうございました。
今年はドライエージングビーフの認知度が上がり、問い合わせや商品としての引き合いが多くあった1年だった。しかし、私の心の中にはいつも1つの不安がある。
写真の撮影者でもある山本謙治氏(やまけん)とも、いつだったか話したことがあるのだが、“まがいもの”の存在だ。
なんちゃってドライエージングで熟成肉として出回る危険性を危惧している。見よう見まねで提供している飲食店が出始めているが、熟成肉と腐敗肉はまったく違うものだという認識を持っていただきたい。
今年の夏ごろだったか、あるレストランのオーナーが熟成肉が完成したので見てほしいと当店に持ってこられた。それなりのフレーバーだったが、肉はネバりがでて腐る一歩手前だった。どうやって熟成させたのかをお聞きしたら、科学的に検証してどうのこうのとむずかしいことを言い始めたので、いかに危険かということを話させてもらった。
衛生面で問題が生じて本人に何かある程度なら自業自得で済むが、お客さんに提供して事故でも起これば社会問題に発展し、これまでドライエージングビーフに取り組んできた業界関係者の方々の長年の努力と苦労が水の泡と化す可能性をはらんでいる。
今後、霜降り肉文化一辺倒だった和牛の世界に赤身肉文化が根づき、その1つとしてドライエージングした熟成肉の価値が生まれることは、うれしくもあり願っていることではあるが、今日届いた業界紙には、某メーカーでは早くもドライエージング専用の冷蔵庫を開発したとの記事が掲載されていた。
温度、湿度、風の3つをコントロールできる専用庫は一見だれにでもドライエージングビーフが作れそうに思ってしまうが、やはりそこは経験と知識が成せる業であり、牛肉関係者こそしっかり勉強してほしい。もちろん私も含めてのことだ。
さて、今年は各地で講演をさせていただく機会があり、私のようなものの話にみなさんの大切な時間を割いていただき心より感謝申し上げます。
3月に宮崎でこんな話をしました。
牛肉はどこで食べてもおいしい。昔と違ってハレの日にしか食べることができない贅沢品ではなくなった。いまではコンビニでもスーパーでも牛肉は気軽に手に入るし価格も懐具合と相談して様々な牛肉を買うことができる。もちろん「うまい」の基準は値段にもよるだろうし、焼肉店であれば、雰囲気や環境にもよるが、「まずい」牛肉にあたる確率は極めて低く、どこで食べてもそこそこおいしい。専門的に肉を見ればいろいろ言いたいこともあるが客観的にみればそんなもんだろうと納得してしまうレベルだ。
私は、当店の肉が日本で一番おいしいとは思っていない。こう言うとポリシーがないのかとか、自分ところの肉が日本一だと思わないでどうするんだと突っ込まれそうだが、そうではない。
以前、パネルディスカッションでこのことに突っ込まれたことがあるが、私が言っているのは牛肉そのもののことではなくこういうことだ。
例えば、社員によく言っているのは、うちの肉が日本一うまいと思っていたら、店が暇なときに暇な原因を天気のせいにしたり、他店のセールのせいにしたりと外的要因を暇な理由にして妙な納得の仕方を覚えてしまいます。
暇な原因を作っているのは我々であるということを教育の1つとしています。
教育の話はあとで少しだけ書きますが、その前に「おいしい肉」について、大阪でイケイケドンドンな快進撃を続けている焼肉屋の社長と何年前だったか、京丹後へ行ったとき、京都から網野までの3時間を肉について語り合ったことがある。
そのときの話がまさに「おいしい肉」についてで、その社長も私と同じようなことを言っていた。つまり、肉でまずいものを探すほうがむずかしくて、どこで食べてもそこそこおいしい。だからこそうちの店なりの価値を見出さないと時代にもお客さんにも取り残されてしまう。というような話だった。
この10年間、販売している肉の背景、ストーリー、そして私の考え方を色濃く出してきた。経営者はワンマンでいいとさえ思っている。ただ、自分のわがまま(願望)を社員や生産者を含む協力者の願望にすげかえることができなければ、1人で走って振り向いたらだれもいないということになりかねない。
12月29日~30日は、毎年徹夜が当たり前だ。私が会社を立ち上げて24年、徹夜していない年末は1度もない。インターネットで通販をはじめて起動に乗ってからは、なおさら徹夜が加速している。
特に29日、30日は出荷のピークで今年なんかは12月を乗り切った1月なんて社員全員疲労から回復するのに半月かかったほど、それほど年末年始の忙しさは超絶なのだ。
目はうつろになり、手は痺れて、立っているのがやっとの状態、私なんて肉を切りすぎて腱鞘炎になるぐらいだ。
しかし今年の年末に徹夜はなかった。
しかもピークの30日は、通常時間に終わってしまって少し罪悪感さえ感じてしまった。
けっして暇だったわけではない。それどころか昨年よりも出荷件数、店売りともに倍増とは言わないが微増しているのにだ。
理由は明確で、「考える」ということを実践しただけだ。年末年始の反省点を2月から取り組み始め、人員の増減から作業場、リーフレット関係の見直し、各作業におけるボトルネックの洗い出しから解消、共有部分でのルール化・・・
徹底的に「時間」をかけて「手間」を省くことに取り組んだ。書けないこともたくさんあるのだが、考えれば限られた人員とスペースでも出荷個数を増やし売り上げをあげられるということだ。もちろん忙しいからといって作業に手抜きはなく、いつも以上に丁寧に商品を作っていく。
年末年始の仕入れは、通常月の倍以上で冷蔵庫には入りきらないほどの肉が吊られる。(→クリック)
これだけの肉を部位ごとに選別して、注文商品と10桁の個体識別番号を合わせて、商品1つ1つに「近江牛証明書」を付けていく。この作業を入社4年目の社員がミスなくこなしていくのだが、それはいかに当店が商品の背景を重視しているかということを理解しているからであり、私の考え方をすげかえることができた結果だと思う。
今年も反省点を踏まえて年明け早々に改善していく。反省することに終わりはなく反省することがなくなったら会社は潰れるだろう。
大切なことは「失敗からしか学べない」ということであり、経営者や店長の仕事は現場で疲労困憊するまで働くことが本来の姿ではない。
経営者や店長の仕事は、「考える」ということだ。
考える暇がないほど忙しいのはありがたいことだが、それでは私も店長も社員も成長がない。「反省」することで次の成功に繋がるし、先輩社員は後輩社員に対しての指導力も格段に良くなる。
とまぁ、教育に関しては、経営者各々のやり方や持論めいたものがあるだろうし、私はそういう類のセミナーとか好きではないので本と失敗からしか学んだことがない。けど、どれが正解なんてないだろうし、案外、講師の先生の会社が一番できてないという気がしないでもない。
さて、何を言いたいのかわけが分からなくなってきたので、そろそろ書くのをやめなければいけないが、2013年も「食」で繋がる新たなご縁を楽しみに、わくわくした1年でありたい。個人的にはもっと肉に詳しくなりたい。
それではみなさん、良いお年をお迎えください。
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