ドライエージングビーフの問い合わせについて
熟成肉っておいしいのですか?
一般の方ならいざ知らず、飲食店の方からの問い合わせは勘弁してほしい。熟成肉を使いたいのだけどどのような肉なのか、、、とか、食べたことないのだけど使うにあたっての注意点を聞かせてほしいとか。時間の無駄です < もちろん私の。
テレビ局からの問い合わせも多く、なんかブームなんですよね、熟成肉。ファミレスでもメニュー化していたり、そりゃ一般の人は混乱しますよ。
熟成肉を一括りにしても捉え方が様々で、牛を屠畜してから枝肉の状態でしばらく休ませておくことも広い意味で熟成といいます。屠畜後は死後硬直のため肉が硬くなるので、7日から10日程度、一定の温度を保った冷蔵庫で休ませる(寝かせる)わけです。そうすることによって、肉が持っている酵素がたんぱく質によって分解され、旨味成分のアミノ酸に変化するのです。これを生物学の世界では自己消化と言います。
この段階でも広い意味では熟成なんです。熟成に基準が存在しないので売り手が熟成してます、て言えば熟成なんです。現状そんな感じで熟成肉が広く出回っているのです。もちろんちゃんと熟成庫を備え付けてドライエージングビーフに取り組んでいる方々は警告を鳴らしています。
私が手掛けているのは、近江牛のA3以下と県内外の和牛の経産牛です。(→)写真は近江牛のA3ロースですが、50日目でこのように真綿のような白カビが確認できます。40日を熟成基準とし、あとは肉の状態を見ながら50日だったり60日だったりで調整していきます。
冷蔵庫(熟成庫)がこなれてきているのでエージングに失敗することはないのですが、菌の相性があるうようで、ホルスタインや短角牛はなぜかうまく熟成できないのです。例えば下の写真をご覧ください。
これは、はじめて西川奈緒子さんから預かったときの完全放牧野生牛のロースですが、同じ条件で同じ日に熟成庫へ入れたにも関わらず、カビが付着せずに(多少の変化は見られますが)リブロースの断面が黒ずんでしまいました。カットするとキレイな肉が見えるのですが、あきらかにカビの種類が違うように思います。熟成香も感じることはできませんでした。一方、近江牛のA3は上記の写真のようにキレイに仕上がりました。
ただ、不思議なことに3月25日の肉Meetsに使った完全放牧野生牛は、カビこそ微量でしたが熟成香はしっかり確認できました。状態も良く、肉質もかなり柔らかくなっていました。間違いなくドライエージングの効果でおいしくなっていたといえます。
ところで、ドライエージングとは対照的なウェットエージングですが、“エージング”と横文字で表現すると、いかにも熟成肉っぽいのですが、こちらはまったくの別物です。一般的に流通しているほとんどが部位別に真空パックされた肉なのです。これをウェットエージングと呼んでいるのですが、いかにも的な熟成肉として取り上げることに私は疑問を感じています。
そもそもウェットエージングなんて呼ばれ始めたのも最近ですし、問屋では“ボックスミート”と呼び、肉屋では“真空パックの肉”(そのままですが)と呼ばれている消費期限を考慮したものにすぎないのです。
あるシェフは雑誌のインタビューでこんなことを言っています。「肉は解体後に真空パックし、屠畜から30~40日経ったものを業者から届けてもらっています。これは、しばらくおくことで旨みが増すウェットエージングです。届くころには充分に味がのっているので店では熟成させません」・・・と。
真空して30日も40日もたてば、畜産関係者ならお分かりのように、ドリップ(血汁)が溜まります。臭いも日増しに強くなり(この場合のニオイは熟成香のフレーバーなものではなく鼻をつく嫌な臭いです)、肉はおいしさを欠いているのです。真空パックをするとき、工程の最後に湯に漬けて肉を引き締めるのですが、バキューム圧がかかるため真空パックされた袋を破ったときに、肉の酵素も一緒に流れてしまうのです。真空パックにした肉がおいしくないと言われる理由はまさにこの点なのです。日持ちする利点はあるのだが、味を損なうリスクも発生するということです。
ブームがどこまで続くのか、はたまた熟成肉は認知されたまま落ち着くのか、私には分かりませんが、飲食関係者のみなさんは自店でやるより熟成庫を備え、しっかりとした知識を持っている方にお願いするほうが私は得策だと思います。
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