霜降り信仰揺らぎ、健康志向で赤身人気
日経新聞の記事ですが、タイトルは「牛肉、霜降り信仰揺らぐ」というものだ。内容を簡略すると、格付けA5等級とA3等級の卸値の差が縮小しているということ。記事には、食の志向の変化や生産技術の進歩に伴う高級品の余剰感背景にあると指摘している。さらに、和牛の海外輸出が盛んに行われているが、表向きは和牛を世界ブランドにしたいという名目だが、現実的な事情として、国内ではA4やA5に余剰感があり、海外への富裕層への販路を開くことで相場を下支えしたいと解説している。
日本の霜降り信仰は、1991年の牛肉自由化を機に盛んになった。輸入牛肉との差別化のため格付けが一般消費者にも広く知れ渡るようになったのだが、その一因としてメディア側からの一方的な情報発信が大きく影響している。「A5の牛肉」といえば、いまやおいしい高級牛肉の代名詞となっている。赤身肉ブームで揺らぎ始めているのだが・・・。
少しばかり農家の事情をお話しすると、子牛の高騰に加えて輸入飼料が世界的に高騰を続けている。日本の畜産は輸入飼料によって支えられているので、高騰続きでは経営難に直結するのだ。そのためには少しでも高く取引できる牛を作らなければいけない。つまりA5になるように育てるということだ。
とはいっても生き物相手なので、そんな簡単にはA5は作れない。じゃーどうするのかというと、サシがよく入る血統の子牛を買い付けたり、ビタミンを抑制して意図的にサシが入りやすいようにしたりといった事情があるのだ。
格付けに関係なく、高く取引され消費者が高く買ってくれれば三方よしなのだが、そんなに事はうまく運ばない。売る側は1円でも高く売りたいし、買う側は1円でも安く買いたい。消費者はおいしくて安いものを求める傾向が強く、おそらくTPPが実行されれば一気に歪が生じるだろう。
農業大国として私が注目しているフランスでは、肉用品種だけでも約20種あり、しかも25等級にランク付けされている。部位も47に分かれます。日本のようにサシ重視ではなく、霜降り度合いが高ければ高いほど高評価というわけでもない。脂肪率等級では、標準的な3が消費者の好む最高ランクとみなされます。フランスの記者が日本の某ブランド牛を食べたら脂だらけだったという記事を目にしたことがある。「脂=霜降り肉」ということだが、味はさておいても、あっさりとした赤身の肉が輸入されてきたら、しかもそれが安価だったら日本の畜産は危機的な状況に陥るかも知れない。いや、一部はかなり危険な状況になるだろう。
この肉は、藤井牧場さんの近江長寿牛(経産牛)だが、40日のドライエージングを経て、駒沢のイルジョットで10日経過したものだ。霜降でもなく赤身でもない、まったく違う価値観で生産者と私と料理人の3人で育てている肉だ。
経産牛の話しをすると、通常は再肥育といって1産~5産くらいまでお産を経験したお母さん牛なら飼い直して出荷します。子供を産んでお役御免ではなく、肉牛として価値を再構築するのです。
しかし、木下さんや藤井さんの場合、5産以上のお産を繰り返すので再肥育しても肉が付かないのです。だから妊娠鑑定で妊娠なしと判定されれば私の出番というわけです。
肉は痩せ骨は細くなっているので通常は廃牛です。脂は黄色く肉質も硬いのです。しかし、10日程度冷蔵庫で寝かせてからドライエージングすると驚くほどおいしくなるのです。
問合わせも結構あったりするのですが、功労してくれたお母さん牛ですからね、、、できれば親しくしているシェフに料理してほしいのです。
仮にTPPで日本の畜産が大きなダメージを負うようなことになっても、私たちはいまの取り組みを続けていくことで、まったく違う価値の創造ができるのではないかと思っています。もちろん自分たちさえよければなんて考えは毛頭ありませんが、私に日本を変えるだけの力もなく、せめて身近な方々においしい肉を届けることを一生懸命やりたいと思っています。
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