ジビーフと羊と運・鈍・根
公開日:
:
2014/05/26
雑記, ジビーフ(完全放牧野生牛) 完全放牧野生牛ジビーフ
完全放牧野生牛(ジビーフ)のヒレと茶路めん羊牧場のTボーンが同時に味わえるということで、サルティンボッカへ。ジビーフの出荷は2か月に1回、しかもヒレとなれば超レアなわけです。かたや茶路めん羊牧場のラムは入荷が少ないうえにこれから夏にかけて屠畜も減少気味。世に出回っているラムはニュージーランドやオーストラリアをはじめとする輸入のものがほとんどです。北海道でもそれは同じで国産のラムを食べられる機会なんて早々ないわけです。しかもジビーフと茶路めん羊牧場のTボーンが同時に味わえるわけですから、そりゃねぇ、そんなに食べられるのかどうかより食べなきゃダメでしょう(笑)
ジビーフのヒレは、和牛のヒレに比べて硬かった。和牛のヒレが柔らかすぎて私にはたよりなく感じていたのでちょうどいい感じです。食感的には和牛のヒレとランプの中間あたりかな。水分がほとんどないのでサクサクとして食べ飽きないですね。
茶路めん羊牧場のTボーンは、微かに香る羊特有のニオイが(じつは羊のニオイが苦手)まったく気にならない範疇でした。肉質はサクサクというよりガシガシと歯茎に刺さるような感じでとてもおいしかったです。付け合せのじゃがいもは、折笠農場さんのさやあかねなので、お皿の上すべて北海道でした。北海道でも実現しない夢のようなコラボが滋賀で食べられるなんてすばらしいことです。
お隣の栗東市には、JRA栗東トレーニングセンターがあります。北海道に縁のある方がたくさんいっしゃるので、ぜひ、サルティンボッカで故郷で育つ牛や羊の肉を食べていただきたいものです。
こちらは、数日前の家めしです。茶路めん羊牧場のモモとニュージーランド産、オーストラリア産のモモです。自信を持ってお客さんにおすすめするには、味も大事ですが、だれが育てたのかを最重要視しています。エサも生産者に突っ込んで聞きます。トータルバランスが優れたものを商品として販売しているのですが、それでも人の口ですから好みじゃない方もいるかも知れません。当然です。
好みじゃない方に、なんとか好きになってもらえるように努力するより、私が選んだ肉を好みだと言ってくれる方に対してさらなるおいしい肉を探したい、そのための努力は惜しみたくないですね。
ありがたいことに、全国から業務用の問い合わせをたくさんいただきます。どういう経路でご連絡いただいたのですか?とお聞きすると、クチコミや紹介がほとんど。あとは雑誌で見たとか噂で聞いたとか(これがよくわからない・笑)……… おかげさまで、出張の多い私としては全国どこへ行ってもおいしい肉にありつけるのです。
独立したてのころは、とにかく売り上げ至上主義で、取引してくれる飲食店なら選んでいる余裕なんてありませんでした。だから扱う肉も輸入肉でもなんでもござれで、オンリーな肉ではなく他社でも扱いがあるオーソドックスなものばかり。価格競争に疲弊してそれでもイケイケドンドンでやるわけです。若いですからね・笑
私の価値観を変えてくれたのは2001年に発生したBSEでした。この話は長くなるので今秋公開の新しいサイトで紹介させていただくとして、今日は価値観の話しをしたいと思います。
少し前の話しですが取引をはじめて3年ぐらいになるでしょうか、、かなりの数量を使ってくれる飲食店がありました。取引額も大きく支払面も遅延なくオーナーの人間性もすばらしく尊敬できる方でした。つまりなんの問題もないわけです。
ただ、1つだけ肉に対する価値観が私とはまったく違いました。先方が求めるのは「格付けと価格」です。使用している肉をA4の近江牛に限定していることと、多店舗展開を想定しているため少しでも安く仕入れたいのです。気持ちは分かります。
私が肉を選ぶ基準は、格付けよりも自分の目利きを信じての肉質であり、さらには生産者なのです。知っている生産者の近江牛でない限り自信をもってオススメすることができないのです。
たとえば、いま目の前にA4の肉とA3の肉があります。格付けはA4が上ですが、私の見立てではA3のほうがいいのです。となると私はA3をすすめます。しかし、先方はA4を求めるわけです。こうなると私でなくても他社でいいと思うのです。
格付け優先になってしまうと、枝肉なら1頭仕入れなので問題ないのですが、この取引先は単品なのです。つまり、シンタマとかランプとか部位ごとの注文です。少量ならいいのですが、使用する量が多くなると、私の手には負えませんので問屋から単品を仕入れなければいけません。となると問屋の在庫から選ぶしかないのです。つまり私の好みではなくあるものの中から無理やり選ぶしかないというわけです。
余談ですが、こういうことの延長線上に偽装があると思うのです。近江牛で品質も価格も求められる理想的なものなんてありません。双方の思惑のバランスが崩れたとき偽装は起こるんだ思います。偽装する側もされる側も無理、無茶が原因だと改めて感じました。
問屋は儲かる牛を仕入れます。生産者がだれであろうと関係ありません。安く仕入れて高く売ることが鉄則です。格付けのよいものを安く仕入れられれば利益もでます。こうなると私の思想とはかけ離れた商いになってしまいます。少量のときはまだよかったのですが、先方の使う量が増えれば増えるほど私のストレスはピークに近づくわけです。おもしろくもなんともありません。好きな肉の仕事でおもしろくないなんて、、これではいけません。
結果として、取引をお断りしたのですが、会社を継続するためには売上も大事ですが、ブレない信念のほうを私は優先したいのです。商いに対する考え方は人それぞれで正解も不正解もないと思うのですが、私が経営者として常に心がけていることは、近江商人の源流でもある「三方よし」です。そしてもう1つ、「運・鈍・根」です。
「事を成し遂げるのに必要な3条件」として、「運・鈍・根」は使われますが、「鈍」は愚直を、「運」は幸運を、「根」は根気を指します。私は不器用な人間ですから3つとも心がけ実行することはできません。「運」は、プラス思考が強い私ですから意識しなくてもマイナスへ傾倒することはありませんし、日頃から運の良い人と付き合うことで私の運も高まるものと思っています。「根」も同様に、好きなことなら根気よくやりますが、興味のないことはスパッとやめることにしています。
私が重要視しているのは、運でも根でもなく「鈍」なのです。つまり愚直なほど正直であれということです。だから私が社員を採用するポイントは「鈍」であり正直かどうかなのです。周りからどう見られようとも自らの信念に忠実であり、ブレることなく周囲の声や情報に影響されずに愚直に事を成し遂げる人でありたいです。
完全放牧野生牛(ジビーフ)も茶路めん羊牧場のラムも、近江プレミアム牛も愛農ナチュラルポークも市場に出回ることのない極めて少ない畜肉です。関わるすべての生産者に共通していることは「鈍」であり、信念を持って牛や豚や羊と向き合っているということです。そういう人たちが育てたものを、格付けや価格優先で販売することはどう考えたってできないのです。私は今年で53歳になります。どこまで現役で包丁を握れるかわかりませんがこの先ずっと「鈍」でありたいと思っています。
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