消費者の嗜好は霜降りから赤身肉へ
公開日:
:
2014/07/01
ジビーフ(完全放牧野生牛)
「脱霜降り」を目指した飼育を始めて10年くらいたったかな。順風満歩(帆)なわけではなくいまも苦戦中ではあるが、取り組みとしてはかなり楽しい。つくづく思うが黒毛和牛での「脱霜降り」は難しい。なぜなら赤身になるように育てようとしても血統が邪魔するからだ。
実際に1頭目の近江プレミアム牛は、格付けA4という想定外の肉に仕上がってしまった。A2かA3での仕上がりを予想していたのでA4と聞いた時にはガッカリした。普通なら喜ぶべきシーンなのだが目指せA2というバカげたことを一生懸命やっているので、ご近所の目は冷ややかなものだ。
なぜA4になったのか… 飼料の60%が牧草なので当然赤身が多い肉に仕上がるはずだった。しかし結果はA4。最初は原因が分からなかったのだが、血統を調べてみると祖父がサシの入りやすい血統だった。それからはいくつかの基準を設けて国産飼料100%に向いている牛を選定している。
ここ数年「霜降り」から、「赤身肉」へと人気がシフトしている。現実問題として和牛の肥育農家にしてみれば1円でも高く売れれば霜降りでも赤身でもいいわけで、時代とともに変化していく覚悟が必要なのかも知れない。
ただ、生産者は自分で売らないから消費者の嗜好の変化に気づかない。なんとなく赤身ブームを感じているだけで霜降り信仰まっしぐらなのだ。売る牛と自分で食べる牛(肉)は違うという生産者もけっこういたりして、割り切ってるというかなんというか(笑)
サシがたくさん入った肉なんて気持ち悪くて食えないよ、といいながら牛にサシを入れてることに懸命な生産者が多い。生産者同志の勉強会でもどうやればサシが入るかに尽きるわけで、そこに「おいしさ」はあまり関係していない。しかし「サシ=味」だと思い込んでいる畜産関係者が多いのも事実だ。
背景はどうあれ儲かる牛を目指すのはビジネスとして当然のことです。経営を維持することが最優先ですからね。だから私があーだこーだ言ったところで生産者は気付いてくれないのです。気付いてても行動してくれないのです。
木下さんの決断は2人の娘でした。一生懸命に育てた牛の肉をおいしくないと拒否した一言だったのです。自分たちはおいしくない牛を作っているのか!… そこが木下さんの分岐点でした。サシが目立つ霜降り肉はそういう牛作りが得意な生産者にまかせておけばいい。私たちがすべきことは、同じ嗜好の方においしい肉を届けることであり、そのためには飼料から見直す必要があったのです。
おかげさまで、近江プレミアム牛は一般販売する間もなく同じ嗜好の料理人たちの予約で毎月埋まっています。
月1頭ペースしか出荷できない現状だが、無理せずやっていきたい。マスマーケットではなく同じ味覚の人にだけ届けたいという思いでやっているのです。ストーリーに共感してもらっても味がブレていてはすぐに飽きられてしまいます。だからこそ「飼料」なのです。
いま取り組んでいるジビーフもじつは今月出荷の予定をしていましたが、先日のジビーフツアーで餌の食い込みが足りないと感じたため牛たちが好きな草を増やすべく種を蒔いたのだ。どういう結果になるかわからないが9月の出荷を目指して味を深めていきたい。
先月行ったジビーフツアーの様子を朝日新聞さんが掲載くださったのでよろしければご覧ください。Web版(→)
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