259ヶ月齢と252ヶ月齢の経産牛がお肉になりました
6月9日に出荷した2頭のお母さん牛「きこ2:平成8年生まれ」と「のぞみ:平成5年生まれ」は、すでに肉となってお客様の食卓へお届けさせていただいたのですが、ロースは2頭分(4本)熟成庫へ入れて8月後半の仕上がりを予定していました。
出荷のシーンに立ち会うと、いつもなんともいえない気持ちになります。毎回立ち会うわけではありませんが、それを日常的にこなしている生産者のキモチはどういったものなのか?
いちいち感傷的になっていたのでは身がもちません。それよりも枝肉になったときの格付けであり、興味があるのはいくらの値がつくかだと思うのです。少しでも高く売れることで生活の糧となり、あとに続く牛たちの飼料代となり、しいてはサスティナブルな牧場経営につながるのです。
さすがに趣味で牛飼いやっている人はいないと思いますが、生活のためでありビジネスなのです。ただ、私が木下牧場に出入りして15年、いや、もっとかな、、、ここの人たちはビジネスだけじゃないなぁ・・・と気づいたのはしばらくしてからでした。出荷して肉になったあとでも自分たちの口に入れ、どんなに遠くてもレストランへ出向いて肉を食い、さらに儲け重視で牛を増やすことなく、あくまでも自分たちで余裕を持った管理ができる体制を整えています。1頭づつに声をかけながら見回る姿を見ていると、どれだけ大切に飼われているのかがよく分かります。それは牛の毛艶を見れば一目瞭然、サラブレッドのように美しく見惚れてしまうほどです。
ときどきですが、牧場を買ってくれないかという話しがありまして、特に2001年のBSE後は激しかったですね。従業員も牛もまとめて買ってほしいとか、投資してほしいとか・・・よほど私が金持ちに見えたのかそんな余裕なんてまったくなかったのにね(笑)
ただ、もし余裕があったとしても、木下さんところや後藤さんところに頻繁に出入りしていたせいもあり、牛を飼うという仕事の大切さと責任は私には負えないと判断していたことは確実です。生産も販売もやっている方もいますが、すごいと思います。私にはとうてい無理ですね。だからこそ売ることに専念できるのですが、かっこよく言えばマーケティングですか。どちらにしても性格的にあれもこれもできないですからね。
さて、冒頭の話しの続きですが、2頭のお母さん牛は「きこ2」が252ヶ月齢で「のぞみ」が259ヶ月齢なので、これはもう木下牧場を支えてきた2頭といっても過言ではありません。通常はお母さん牛の役目(種が付かなくなったり)が終わると、廃牛にされるか、再肥育といって半年程度、穀物肥料を与えて肉を付けるのです。しかし、私の考え方は、おばあちゃんに無理やりご飯を食べさせて太らせることは辛いんじゃないかと思ったりするわけです。だから、木下牧場の経産牛には近江長寿牛とネーミングして再肥育せずに肉にしているのです。
おかげさまで、「きこ2」も「のぞみ」もシェフのみなさんや一般消費者のみなさんからの評価も良く、私も食べましたが通常の肉と遜色ないくらい美味でした。「のぞみ」が高齢すぎて肉質が柔らかいのでスライスには向いていませんが、ステーキや焼肉には最適です。
今朝、熟成庫へ入ると「きこ2」、「のぞみ」の2頭のロースが吊り下げている金具が外れて落ちていました。こんなことは滅多にないのですが、これはなにかの暗示に違いないと(笑)、半月足らずですが、熟成庫から出して骨を抜いてみました。1枚焼いて食べましたが、かなりおいしかったです。冷静に考えれば、熟成させていない状態でも高評価なわけですから、それがロースならおいしくて当たり前ですよね。
7月8日の肉Meetsの件で、イルジョット高橋シェフと打ち合わせていたのですが、さすが嗅覚鋭い高橋シェフ、「なんかおもしろそうな肉はないですか?」と、まるで私の行動を見ていたかのような問いかけに笑っちゃいました。でことで、「きこ2」のリブロースはイルジョットで食べられます。3.7kgとかなり小さめなのですぐになくなるとおもいますが…。ご興味のある方はぜひお出かけください。
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