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プロの仕事について

公開日: : 2015/01/03 雑記

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真空パックによる牛肉が流通しはじめてから長期保存が可能となった。もちろん真空パックしない肉でも枝肉の状態であれば1~2ヶ月は持つのだが、いかんせん変色により歩留りが悪くなる。利益率を考えると圧倒的に真空パックにして保存したほうが良い。それと廃棄ロスが少なくなった。このあたりも考えようによっては、せっかく産まれてきた命だから肉の一欠けらも捨てることなく使いたいという想いや考えに通ずるものがあるかも知れない。

真空パックにしてしまうと利便性もあるが、リスクもある。日が経つにつれ肉の旨味が薄れてくる。枝肉保存とはまったく逆だ。枝肉保存の場合は、個体差にもよるが日を追うごとに旨味が増してくる。いまは衛生上の問題や骨を抜く(外す)職人も少なくなったのでボックスミートと呼ばれる真空パックの肉が主流だが、私が修行していた時代(30年以上も前)は写真のような光景が全国あちらこちらの肉屋で見られた。この時代に生きた肉好きたちは、当時に食べた肉のおいしさを鮮明に記憶している。そしてみな一様に、「むかしの肉はうまかった。いまの肉はおいしくない」と言うのだ。

じつは私もそう思っている1人だ。真空パックの肉しか食べたことがなければ比べようがないからわからないと思うのだが、食べ比べるとよくわかる。イメージとしては肉とわりしたが仲良くしてくれる感じだ。真空パックの肉は真空したての2~3日なら問題ないが、消費期限が近くなればなるほど肉とわりしたが反発しあうようで肉に旨味がない。水分量の多い肉ならなおさらで、真空パックを破るとドリップ(血液)とともに旨味まで流出してしまう。

肉を扱う人間は変わり者が多く、各々に持論があり頑固だ。A5信者もいれば雌牛信者もいる。どこで覚えてきたのか小難しい言葉を並び立ててかしこぶる人もいる。そういう人は学者にでもなればいいのにと思うのだが、どれが正解でどれが不正解というものはなく、その人の考えや思想に共感する人がその人が扱う肉を買えばいいわけで、適度に水分を逃がして肉を乾かしてやるほうが私はおいしくなると思っているし、実際にこんな実験をしてみたことがあります。1頭の枝肉を半頭だけ骨を外して真空パックにしてみたものと、もう半頭は枝肉のまま吊るしておいたものを食べ比べた。10日後、20日後、30日後に食べ比べてみると日を増すごとに味に差が感じられたのだ。もちろん肉によってはすぐに骨を抜いて精肉にした方がよい場合もあります。そのあたりの見極めがプロの仕事なのです。

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プロの仕事について

私は19歳からこの仕事をしている。3年間他所で修行し4年間身内の肉屋で修行した。枝肉から骨を抜く(外す)作業がある日は憂鬱でたまらなかった。物覚えが悪いうえに1頭捌いた頃には汗だくでふらふらの状態だった。シャツなんで絞ればボトボト汗が流れるほどだった。力まかせに包丁を入れるものだから、21歳のときに自らの股間近くを刺してしまったこともある。後にも先にも救急車のお世話になったのはこのときだけだった。

ところが、いまも捌きはやっているのだがなぜか汗ひとつかかない。体力的にはかなり落ちているはずなのに。おそらく無駄な動きが減ったからだと思うのだがいまのほうが断然キレイな仕事ができている気がする。若いころはとにかく力任せで骨を抜くというよりむしり取るといった感じでかなり乱暴だった。自画自賛するつもりは毛頭ないのだが、ようやく肩の力が抜けて無駄な動きのない仕事ができるようになってきたように思う。とはいうもののまだまだ修業の身だ。

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昨年の12月11日にと畜した木下さんが育てた雌牛「きす号」だが、もう少し寝かせておきたかった。でも十分おいしくなってくれたので本日骨を抜いた。大晦日にカタロースをすき焼きで食べたのだが恐ろしくおいしくなっていて驚いた。ロース2本とウチヒラ2本、ランプ2本は売れてしまっているのだが、シンタマとソトヒラが行き先未定だ。ご興味のある方はご連絡くださいませ。(シンタマ、ソトモモ売れました)

 

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