どうすればおいしくなってくれるのか
どうやったらおいしくなってくれるのか?… なんか毎日寝ても覚めてもそんなことばかり考えているような気がする。人の話しも耳に入らないくらい集中(というのか)しているときもあり、聞いてますか?と注意されることもしばしば。まぁ、ほかになんの取り柄もないから肉ぐらいはと周りは諦めてますけどね。
写真はソトバラにくっついているササミ(左)とインサイド(内ハラミ)です。ミートペーパーに包んでまる1日外に放置しておきました。冷蔵庫ではなく外気にさらすことには意味があるのですが、ミートペーパーが余分な水分を吸収して肉がしっとりしてきました。
インサイドはこんな感じです。ササミはしばらく冷蔵庫で冷やしこみます。個体によってフレッシュで使ったり熟成させたり、水分量の多い枝肉はしばらく吊るして乾かしたりと、あの手この手でどうやればおいしくなってくれるか悩むのです。さらに部位によっても管理の仕方が異なるのでいかに肉と真正面から向き合うかが大事になります。
これだけやっても食べ手の評価がすべてになります。おいしくなかったと言われれば私の努力が足りないだけで次にいかさなければなりません。「肉が発する声をよく聞けばわかるやろ」…これは私が修行時代に言われ続けたことです。当時20代で物覚えが悪かった私は、肉がしゃべるわけないやろと反抗していましたが、いまなら何を言いたかったのか少しはわかります。
和牛は血統で80%で決まると言われています。これは見栄えのことでサシ、つまり格付けのことを指します。味に関してはエサがほぼ100%です。もちろん環境など細かなことを言いだせばきりがありません。とにかく牛というものは生命力と自然環境が育むものであり人間がいくらがんばっても思う通りにはできないものなのです。
だから格付けがどうであろうとも肉質がどうであろうとも、肉屋は最善の努力をし料理人は最高の一皿を作ることに命がけにならなければ食べ手の心が震えるなんてことはあり得ないと思っています。
切りたてなので発色していないのですが、こちらは近江プレミアム牛のリブロースです。国産飼料だけで赤身になるように育てているのでお世辞にもキレイな肉とは言えません。格付けもA3です。私的には狙い通りの仕上がりなのですが、100g3000円の肉を注文してこの肉が送られてきたら人によってはガッカリするかも知れません。
少し極端な例ですが、100g2000円でサシがキレイに入った見た目に鮮やかな肉。しかし食べると脂っこくて重い。一方100g3000円で見た目は赤身が多いが食べるとおいしい。どうしても「サシ=おいしい」という見方が一般的なので、赤身が見劣りするのは否めません。もちろんサシがたくさん入った肉でもおいしいものはあるとは思いますが、サシは脂ですからね。
私が考える肉の価値とは「味」なのです。いくら見栄えがよくてもおいしくなければ食べ手にも牛にも申し訳がありません。おいしくなってくれるにはどうすればいいのか… 1頭づつに個性があるから同じような手法は通じないのです。だから悩んで悩んでどうすればおいしくなってくれるのかと、そのことばかり考えるのです。
関連記事
-
-
「A5=おいしい」は間違い
経済産業省中小企業庁委託事業として開催されている 情報啓発モラルセミナーの東京講演に出講さ
-
-
世の中はシンプルに、食の流通もシンプルに
昨夜は、先斗町の佐曽羅 EASTさんで近江プレミアム牛を堪能しながら今後の取り組みなどを話し
-
-
ミンチは端材を利用するのではなく、骨から切り出したチマキ(スネ)を使っています
スネはミンチ材として骨付きで吊るして軽く水分を抜いています。水分が多いと変色が早く、特に冷蔵
-
-
格付けは一つの基準でありモノサシでありおいしさはあまり関係ない
部位はランイチであったりウチヒラであったり、シェフと相性の良い肉を選ばせてもらっている。格付
-
-
トモスネの吊るし焼肉が意外とうまい
トモスネ(後足のスネ)は、脂肪分が少なく筋も多く肉質は硬めなので用途としては、ミンチ