牛と料理人
公開日:
:
2015/03/05
牧場・生産者
料理人が牧場まで足を運ぶにはいろいろな想いがあってのこと。というのも大切な休みを使って1日を割いて勉強したり、なかには営業を休んで来る人もいますからね。インターネット社会における「生産者の顔」はホームページや商品に造り手の顔写真を貼り付けて安全性を醸し出すパターンが多い。少なくとも私はそう思っているし実際にそういうサイトをこの10年多く見てきました。レストランのメニューもしかりでまぎらわしいものが多いように思います。牧場にやってくる多くはオーナーシェフか独立心の強いシェフ。そしていつも感じることですが、小さなレストランのシェフほど生産者との風通しが良いように思う。まぁ、一概には言えませんが私が知っている限りでは…ということで。
ところで、牧場を見学したいという問い合わせはかなり多くあります。料理人だけではなく学校関係者から消費者の方まで様々です。申し訳ないがすべてお断りしています。取引をしたいのでその前に牧場を見学したいという場合もお断りしています。牧場見学は1日仕事でかなり疲れるし業務にも支障をきたします。どこのだれだかわらかない人のために時間を使いたくないというのが本音です。
取り引きがはじまり(取引がなくても)交流があったり、なんとなく感じるものがあったり、波長が合ったり、とにかく気が合えば私からお誘いする場合もあります。この人と牛を見ながら語り合ったらさぞ楽しいだろうなぁと感じたら、それはもう業務そっちのけで牧場へGOなのです。実際、私の肉を扱っていただいている料理人と牧場へ行くと楽しくて仕方がない。先日は前々から切望されていたこともあり、ようやくLe14e(ル キャトーズイエム)の茂野シェフと木下牧場へ行くことができた。私の興味は茂野シェフが牛を見てなにを思うのか?そして料理にどのように反映するのか?もちろん牧場へ行ったからといって翌日から料理がガラッと変わるなんてことはあり得ないのですが、シェフの気持ちになんらかの変化があり、それが料理に必ず表れると思うのです。
シェフとの会話でなにが楽しいかって良くも悪くも私が仕上げた肉の感想が聞けるのです。こんな贅沢なことはありません。食べ手の評価をその場で聞くことができるシェフの声は私にとっては神の声と同じです。おそらくうまいであろうという推測のもと肉を送るのですが、実際は焼き手と食べ手の感想がその肉の評価だと思うのです。私はできる限り料理人の好みに合わせて仕上げるようにしているのですが実際のところは食べてみないとわからないのです。肉を使っていただくシェフを私が選んでいる以上、そのシェフの料理を評価した人の口が私の肉づくりの基本となります。
木下牧場へ向かう車中でこんな話がありました。先日送った木下さんのランプ(30日の枯らし)と同じく木下さんのカイノミ(フレッシュな状態のもの)を食べ比べたらしいのです。ランプは赤身だが一口目は口の中に脂が回りあまりおいしさを感じなかったというのです。一方カイノミは一口目のインパクトがすごくおいしくて印象的だと。カイノミは火の通りが早いので油を薄めにひいて高温で一気に揚げ焼きするそうです。表面をキャラメル状に固めて中はレアの状態。聞いているだけで唾を飲み込んでしまいます。食べ進めていくとランプが底力を発揮しおいしさが逆転するのだそうです。ランプは少し冷めかけたころに旨みがぐわっと口の中に広がるというのです。そして舌先に酸が少し残り余韻が長く続くのだと。いやぁー楽しすぎます!
茂野シェフはパリで7年間肉を捌いて焼き続けてきました。知識も技術も十分あります。私から見ても肉をよく知っていると感じることが多々あります。その茂野シェフが肉は赤身がすべてだと思っていたが、木下さんの肉を扱いだして肉は脂だと考えが変わったというのです。赤身の肉でもトリミングする前は脂だらけなのです。その脂の質が重要だというのです。だからこそ茂野シェフには実際に牛に見て感じてほしかったのです。
牛舎に入って茂野シェフがくいついたのがエサです。フランス時代の記憶を重ね合わせて日仏の牛肉事情を織り交ぜながら持論を展開します。これがまたおもしろい。この人はほんとうに牛が好きなんだなと(笑)
近江プレミアム牛のエサの試食(笑)人間が食べれるものしら牛に与えないでほしいというのが私が木下さんにお願いしていること。大豆や米ぬか、酒粕があまりにもおいしくてバクバク食べる茂野シェフ。
パリから東京、そして京都でLe14eをはじめて2年がたった。東京の祥瑞時代は荒々しい肉焼きだったが京都にきてからやさしくなったという人がいる(らしい)。しかし、私が感じる茂野シェフの肉焼きは私が知り合ってからでも日々変化している。確かにやさしさもあるのだが時折見せる荒々しさは健在なのだ。そして茂野シェフは「僕が探し求めていた肉にやっと出会った、長年こういう肉を僕は探していたんです!」と木下さんの肉を触り、捌いて、焼きながらいつもそう言うのです。ただ、そんなにたくさん木下さんの肉があるわけではなく、しかも屠畜して枝肉から熟成させるまでけっこう時間がかかってしまうのです。私が茂野シェフの好みに仕上げてから届けるようにしているのですが、これは茂野シェフだけではなく、例えばクレメンティアの田淵シェフやイルジョットの高橋シェフにも好みに合わせて仕上がりを調整しているのです。
この牛はいまお腹に子を持っています。おそらくこれが最後の出産になるだろうとのことです。木下牧場で20年がんばってくれた功労者だそうです。もともと私がドライエージングをはじめたきっかけが経産牛の肉質を柔らかく味わい深くするためでした。この牛はすごくおとなしくて茂野シェフに寄り添うようになついていました。お肉になったら茂野シェフに託そうと思います。きっと命をつないだ料理を作ってくれることでしょう。
生産現場を訪ねる料理人とそうじゃない料理人。どちらがどうということではないのですが、私は茂野シェフがポツリ言ったことが印象的でした。
僕は肉を焼くとき毎回いろんな思いがよぎるんです。パリ時代のことであったり東京時代のことであったり、ときには友人の顔であったり。僕はそういう思いを込めて肉を焼いています。僕の焼く肉はこれからもっとおいしくなると思うのです。
茂野シェフはいつも謙虚でめったにこういうことを言わないのですが、この日はめずらしく饒舌だった。
茂野シェフが焼く肉は、これからも進化し続けることでしょう。楽しみです。
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