肉Meets in Restaurant愛と胃袋【竹虎くんを食べる会】
2年半前になるかな。友人が木下牧場へ遊びにきたときに仔牛が産まれました。友人の会社は創業121年の老舗の竹屋さん。友人の会社の屋号を仔牛につけました。繁殖肥育一貫の木下牧場では200頭の牛たちが暮らしています。そのほとんどが友人知人の名前を拝借しています。理由はいくつかありますが木下さん曰く管理しやすいそうです。エサを手からやるので牛の目をみて話しかけるわけです。「竹虎、風邪ひいてないか」とか。これって大事なことで発育にも大きく影響するのです。私も牛舎へ行くたびに友人の名前がついた牛は気になります。
ところで竹虎くんですが、いつだったか木下さんから腸の病気で危ないかもしれないと電話がありました。もしものことがあったらどうしようと竹屋さんの顔が浮かんだのを覚えています。その後は元気に回復して27カ月でお肉になってくれました。
牛の命をいただくということは殺生であり、食べるということは供養です。捉え方というか考え方は人それぞれですが私はこのように思い考えながら仕事をしています。命がどうのこうのと軽々しく言ってしまうと、場合によっては安っぽく聞こえるかも知れません。でも私は生産者から預かった牛を肉にすることが生業であり、そこに強いメッセージを持たなければただの金儲けになってしまうのです。殺生と供養は相反するものですが、肉になってくれた牛の背景を語ることは私にとっての役割であり、それを皿の上で表現するのが料理人だと思うのです。
肉Meetsというイベントはそういった発信の場でもあります。竹虎くんを食べる会は竹屋さんの希望もあって東京で開催することになりました。すぐに顔が浮かんだのが三軒茶屋の愛と胃袋、信作シェフでした。お店のキャパをオーバーした申込みがあり最終的には補助席を設けての開催となったのです。
私がこの日のために用意した部位は、サーロインとシンタマ(マル)の2つです。同じ牛の肉ですがサーロインはサシが入り、シンタマは赤身の強い部位です。一部(ヒウチ)にはサシが入りますが、そのあたりが二面性を持ったシンタマのおもしろいところです。私が事前に試し焼きしたときは、サーロインは火のとおりが早く、糖度の高いシンタマは火のとおりが遅い感じを受けました。
料理は前菜からデザートまで10品。すべての皿に物語があり、そして感動があり、余韻の残るものばかりでした。そしてお皿からはいいものを作りたいというメッセージを感じます。私は外食が多いのですが、金儲けが好きなのか料理が好きなのかと問うてみたくなる皿に出くわすことがあります。この日は木下さんが27か月育てた牛への愛情というか想いを信作シェフが繋いだようなすばらしい料理の数々でした。
参加者の期待値を超えるすばらしい料理のおかげで笑顔溢れるすばらしい会となったのでした。
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