Le14e茂野シェフの牛肉考
公開日:
:
2015/03/20
店・料理人
Le14e(ル キャトーズィエム)の茂野シェフとは毎日のように電話や直接会ってやりとりしている。茂野シェフがLe14eをOPENさせてから2年が過ぎた。この2年で肉焼きもかなり変貌を遂げた。肉焼きに終わりはなく焼くことをやめても満足することなないと思う。最近の茂野シェフは悩んでいる。いや、悩んでいるという言葉は違うかも知れない。どうすればもっとおいしく焼けるのか?… 寝ても覚めてもそればかり考えているといったほうが正しいかもしれない。茂野シェフには理想とする肉があった。それを追い求めていた。そして出会ったのが木下牧場の牛だったのだ。
茂野シェフは私にこう言った。「僕はこういう肉をずーっと探していたんです!やっと見つけました」って。
パリ時代や東京の祥瑞時代をご存じの方は、「茂野シェフ=赤身肉」のイメージが強いと思います。
その茂野シェフが近江牛???… おそらく驚かれている方も多いんじゃないかな。だって近江牛のイメージって「ザ・霜降り肉」ですからね。近江牛に限らず和牛、特にブランド和牛はサシを入れてなんぼの世界ですから。ただ、和牛でも赤身を重視して作る生産者もいるわけで、そこを買い支えさえすれば立派にビジネスとして成り立つのです。
肉の味を追求すればするほど脂に行きつきます。おいしい肉はオレイン酸がどうとか融点がどうとか、たしかにデジタルではそうでしょう。でもね、肉のおいしさはアナログなんです。
先日、茂野シェフはこんなことを言っていました。「肉は赤身がおいしいと思っていたけど最近、脂だと気づきました」と。これはサシのことを指しているのではなく、上質な牛の脂からは上質な肉がとれるということです。牧場へ行くと、牛のお腹あたりにから太腿にかけて糞の塊がついている状態をよくみかけます。この状態を「鎧」と呼びますが、上質な脂を持った牛はこの鎧がつかないのです。内部の脂で自然に鎧を落としてしまうのです。
木下さんの牛は焼くのがむつかしいと言われています。突き詰めるとおそらくだれもが骨付きの肉を仕入れて捌くというやり方に行きつくと思うのですが、茂野シェフはパリ時代に取得した技術で現在木下さんの牛を自らの手で骨を外しておいしさのタイミングを調整しています。最終的には木下さんの牛一頭を枝肉のまま使いたいと茂野シェフは言います。たった5坪の店でそれが実現する日はそう遠くないでしょう。
3月15日、マッキー牧本氏とLe14eへ。そのときの氏の感動ぶりは肉の塊を口に放り込んでは目を閉じてニッと笑う。この繰り返しだった。氏のうまいものに出会ったときの表情だ。以下、マッキー牧本氏の感想です。
「木下牧場の肉は、糖度が高い。イチボは酸の伸びがある。それを生かすために、一番気を使います」。そう茂野シェフは言う。
「表面はカリッと焼き上げますが、余分なカラメル香はつけない。塩もほかの肉より少なめにふります。でも一番難しいのは、他の牛と比べて、焼きあがるピークポイントが極めて狭いところなんです。だから倍緊張します」。そういって稀代の肉焼き師は、優しい目に笑みを浮かべた。難しいと言いながら、実に嬉しそうである。
「一方ハラミは、脂が口の中に残らないように焼き上げなければいけない。鍋を傾け、少ない油にして、アロゼしながら焼き上げます」こうしてle14eのステーキは、肉の部位に合わせた繊細なステーキは、焼き上がる。ハラミは、脂の醍醐味と肉の香りを口の中で爆発させながら、すうっと消えていく。だからいくらでも食える。
イチボは、ああイチボは、歯が肉に吸い込まれるように入っていき、甘い汁がじっとりとこぼれ出る。
なんと品のいい、きめ細かい肉質なのだろう。健やかに育った牛ならではの、清らかな旨みが、噛めば噛むほど溢れ出て、黙ってしまう。肉に木下牧場の家族たちの誠実が宿っている。だから食べている内に、心が満たされる。喉を通り、胃袋に落ちていく喜びを感じると同時に、無くなっていく寂しさも感じるのは、そのせいだろう。
この肉を見事に焼きあげるle14eの客席はとても小さい。
でもたった5坪ほどの店に、評判をを聞きつけたフランスのトップシェフたちが次々押し寄せる。
そしてうまいっと口々に叫び、肉に染みた愛を噛みしめる。
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