素材をいかにおいしくするかは技術と知識と感謝だと思うのです
公開日:
:
2015/08/15
雑記
熟成庫で60日を超えた経産牛のリブロースです。経産牛は骨が癒着していて関節に包丁が入りにくかったり、骨が変形している場合もあったり、とにかく未経産の牛や去勢の牛と比べると捌きにくいのです。また、牛が歳をとっていることもあり、骨が痩せているので折れやすくなっています。骨を持ちあげた時にペキッと折れてしまうこともしばしば。
捌き(肉から骨を外すこと)は圧倒的な技術と知識がなければできないものだと思い込んでいました。しかし、ここ最近になって骨付きで欲しいというシェフが増えてきたのです。捌きの経験はあるのかと聞くと、皆一様に答えはNOです。サーロインはなんとか捌けてもリブなんて難しいと思うのです。特に経産牛のそれは熟練の職人でも手こずることがあります。
いつだったか、骨付きのサーロインを使っていただいているシェフに、いったいどうやって捌いているのか見せてほしいとお願いしたことがありました。で、どうだったかと言うと私がいままで見たこともない捌き方だったのです。斬新と言うか、こういうやり方もあるのかと驚きました。ロースはリブにしろサーロインにしろ、間接を切って1本づつ外していくのが私のやり方です。いや、私だけではなく世界中の肉職人はこのやり方だと思うのです。
ところが、このシェフのやり方は骨に沿って肉を切り取っていたのです。骨に肉がたくさんついていたので歩留りは悪くなりますが、素材を活かすための最大限の努力だと思うのです。オーダーごとに骨から肉を切りだしますから、あらかじめ骨を抜いた肉と食べ比べても味に違いがでるはずです。
肉は骨を外した瞬間から酸化がはじまるので、日を追うごとに風味が落ち傷みやすくなります。よく知られていることですが、牛肉は切りたてだと暗赤色ですが、空気に触れると鮮赤色になります。さらに経過すると灰褐色になります。これも酸化によるものですが、酸化を防ぐために一般家庭ではラップで包んだりジプロックで保存したりします。飲食店での塊肉の保管は、ミートペーパーやミートラッパー(肉を包むガーゼのようなもの)をオススメしています。
最近思うのですが、やっぱり素材だなと…
いい生産者に巡り合うこと、いい牛肉を手に入れること、手に入れた牛肉をどのように活かすか。滋賀県では月曜日と木曜日に近江牛のセリが開催されます。生産者によって特徴があり、大きな牛を作る人もいれば去勢しか肥育しない人もいたり、それぞれに得手不得手があるのでしょう。買い手もプライオリティが生産者なのか枝肉そのものなのか、こちらも特徴がでます。
どちらにしても、私の仕事は肉をよく知っていなければいけません。生産者の人柄含め、飼育方法もある程度把握しながら枝肉を見極め、さらにはどうすればおいしくなってくれるのか、フレッシュなのか枝枯らしなのかドライエージングなのか、どの段階で骨から外せばいいのかなど、とにかく素材の活かし方がおいしさへ繋がることは間違いないでしょう。
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