ブームに左右されず目の前の肉を見て個性を引き出す
6月に茶路めん羊牧場を訪ねたときの武藤さんと銀座レカンの高良シェフ。2人の会話は生産者と料理人という枠組みではなく職人同士という感じだった。高良シェフとはいろんな場所、場面で出会ったりご一緒させていただくことが少なからずあるのですが、牛肉に向き合う姿がじつにすばらしいのです。
健康志向から赤身肉を好む人が増えています。その影響でサシの多い和牛が悪者のように語られる場面も少なくありませんが、高良シェフはそれでは料理の幅を狭め、結果的にゲストから食の楽しみを奪うことになる。ブームに惑わされず、黒毛、褐毛、短角など牛によって調理法が異なるのでそれぞれの特性を見極めておいしさを引き出すことが料理人の役目じゃないかな。と、このようにおっしゃっていたのが印象的でした。
特性を見極めるってほんとうに難しくて、経験や知識だけでは補えない部分があるように思います。ずっとなにかなと思っていたのですが、同業者やいろんな料理人と触れ合って感じることは、やはり「センス」じゃないかなと最近つくづく思うのです。食の世界に関してだけじゃないと思うのですが素材の個性をうまく引き出すテクニックもセンスが必要ですし、もっというなら身なりや体型からもセンスが感じとれます。
いまこのブログを書いていて思いだしたのですが、私が19歳で肉屋の世界へ入ったときに先輩が6人いました。トップは板場さんと呼ばれいちばん下っ端の私は丁稚です。当時、板場さんに「肉屋にとっていちばん必要なのはなんですか」と質問したとき、「センスや!」と言われたのをいま思い出しました。
センスといえば服装もそうですし、それこそ食と同じで好みが大きく左右されるところです。当店には定期的にお肉を発送する「わくわく定期便」なるものがありまして、こちらなんて私の好みでお肉を選ぶものですから、ときどきお客様の好みを無視してお叱りを受けることもしばしば。例えば10名のお客様に同じお肉をお届けしても、すごくおいしかったと感想をいただく場合もあればその逆もあります。
好みと言ってしまえばそれまでですが、やはり10人全員がご満足いただけるお肉をお送りするのが理想ですし、そこを目指さなければいけません。わくわく定期便のお客様に関しては、ある程度の好みは把握してはいるものの、食べていただくタイミングや保存状態によっても味は変化しますし、なによりも、硬い肉は意図的に柔らかくせずに硬いまま食べて欲しいというのが私の考え方ですから、筋も切らずにお送りすることもあります。結果的に「今回の肉は硬かった」と言われることもありますし、歯ごたえがよくおいしかったと言われることもあります。
どちらにしても熟成肉や赤身肉など話題にことかかない最近の牛肉事情ですが、ブームに左右されずそれぞれの個性を見極めることが大切だと思います。そのためには目の前の肉と真剣に向き合うことが日々のなかでもっとも重要で、作業にならないように気をつけなければいけません。
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