部位の特性に適した保存方法が肉をおいしくする
公開日:
:
2015/10/02
牛肉の部位
(写真は捌いたばかりの近江プレミアム牛。赤身が詰まった理想的な仕上がりです)
国産の飼料だけで牛を育てられないものかと取り組み続けて10年。ようやく納得のいく肉質に仕上がってきました。日本の畜産の大部分は輸入飼料に頼っているのが現状です。なので穀物価格の国際市場の変動に大きく影響を受けるのですが、かといって国内で飼料を100%自給できないのも現状なのです。
10年前、市場の変動に影響を受けない取り組みをしていかなければと、国産飼料100%での自給をはじめました。長い目でみればこの先、飼料だけでなく牛そのものが高騰する可能性もゼロではないわけで、だったら来たるべきその日に備えてやっていこうと、私たちの取り組みがはじまったのでした。良いのか悪いのか、いままさにその状況になっているわけでして、格付け関係なくここ2~3年の高相場は異常です。
穀物を与えない飼育は、がんばっても仕上がりがA2等級。しかも買い取り価格はA5等級と同等。周りから見ればバカです。和牛の世界でサシが入らない肉は二束三文で同業者からは鼻で笑われ、生産者はこれまた他の生産者から「ヘタクソ」と罵られる始末です。牛を大きくしてサシを入れてA5等級に仕上げてこそ「価値」が見いだせるのが和牛の世界です。しかし、私たちが求める「価値」は、牛を大きくしない、無理やりサシを入れない、そしてなによりも脂の質に重点を置いたのです。
ときどきですが取り組みがメディアにも取りあげられました。だからといって注文が殺到するわけでも生活が楽になるわけでもなく(笑)… 注文が殺到しても困りますが、ただ、なによりも嬉しいのは、生産者と私とお使いいただいているシェフたちの三者が価値をしっかり共有できているという点です。だからこそ牛同様に私たちもストレスフリーでお付き合いできるのでです。
そしていま高騰を続ける業界内はパニック状態に陥っています。狂気のような高値がどこまで続くのだろうと先々を心配する声ばかりです。もちろん私も多少は危惧していますが、まずは目の前の肉がどうしたらおいしくなってくれるのか、枝肉からおいしさへの探求こそが肉屋の仕事なのです。
枝肉からロースのみ切り取って、10日経過したものです。どんなに良い環境で育てても、サシが多い肉はたくさん食べられません。贔屓目にみてもサシは脂ですから、あさっさりとした食感のはずもないし、たくさん食べると胃が疲れてあたりまえです。それをどれだけ軽減しておいしく食べてもらえるかが課題であり、仕上げのタイミングであり、いやはや難しいのです。
こちらは30日経過したロースです。サシの多い肉でしたがかなり食べやすくなりました。ドライエイジングではなく冷蔵庫に吊るしておいただけです。もちろんただ吊るしておいただけではなく、コツというかポイントのようなものはあります。
こちらは、近江プレミアム牛のヒレです。写真はカイノミです。ヒレは変色が早いのでフレッシュな状態で商品化します。肉質も柔らかいので吊るしたり熟成させたりする必要もありません。
このように、部位の特性に応じた熟成方法がおいしさに直結しているのです。
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