格付けはおいしさの指標ではなく牛がいただく勲章みたいなもの
公開日:
:
2015/11/15
格付け
と畜日が10月15日ですから、ちょうど1ヵ月前になります。親しくしている生産者の枝肉をセリで落札したものですが、じつは枝肉を見ずに買ったのです。狙っていた枝肉が異常なほど高値になってしまい根性のない私はビビってしまい買い損ねたのです。しかし、この日は最低でも1頭は買って帰らなくては在庫もなくて仕方なく勘で買うはめに・・・。買う条件としては「小ぶり(目方が小さい)で生産者をよく知っていて格付けが低い」この3つです。とはいうものの枝肉を見ずに買うのはやはり冒険です。
格付けはあくまでも生産者のやる気の元であり、がんばった牛への勲章であり、購買者の目利き基準だと思っています。本来は消費者の方にはまったく関係ない格付けが、節操のない飲食店やメディアの煽りなどから「おいしさの基準」のようになっているのが現状です。先日、「グランピングI・K・U 青山」のお披露目会で同席だった方も「おいしいお肉が食べたいときは高くてもA5を選んでいます」みたいなことをおっしゃっていました。たしかにおいしいA5もありますが、情報だけが一人歩きしすぎて本質は沈んだままで上澄みをすくいあげた感じがします。格付けはあくまでも「ものさし」であって味の評価ではないのです。マスコミがどれだけ煽っても、最近の一般の方はかなり肉に詳しい人も増えてきましたので、一昔よりは惑わされていないように感じます。
格付けに関係なく愛情こめて育てた牛の肉はおいしいものです。本来なら格付けなんていらないのかも知れませんが、確かに格付けはセリで購買するときの目安になりますし、問屋さんとの売り買いの際の判断基準としても有効です。
さて、格付けを簡単に説明すると、サシ(脂肪交雑)がたくさん入っているのがA4とかA5でサシが少ないのがA2やA3です。歩留りとかややこしいことを省略すると格付けとはサシが多いいかす少ないか、こう考えるとわかりやすいと思います。ですから霜降り肉が好きな方はA4やA5を選べばいいし、赤身が好きな方はA2やA3を選べばいいということです。ただ、これすらあくまでも購入時の判断基準にすぎず、和牛ならA3でもサシが入りますし、やはり肝心な味は格付けには関係ないのです。
かといって格付け表示をして販売している店もほとんどありませんし、仮に表示してあってもAとか5とかの数字で買っておいしくなかったという事にもなりかねません。だから信頼できる店や人から買うしかないのです。スーパーのパック肉はしゃべってくれませんから、できれば肉屋で対話しながら買っていただくことをおすすめしたいです。
格付けの話しばかりになってしまいましたが、冒頭のA3のサーロイン(写真)は、予想に反してかなりサシが入っていました。ほんとうに格付けはあてになりません。A3狙いでサシがたっぷり入っているとガッカリするものです。逆にA5狙いでサシが入っていなかったらショックだったりします。格付けはロースの断面で歩留等級、ロース芯の面積、バラの厚さ、皮下脂肪の厚さ及び半丸枝肉重量の4項目の数値を計算し決定します。ロースの断面がA5レベルでも切り進めていくとサシがない場合もあります。
先にも述べましたが、和牛はA3でもサシが結構入っていたりします。サシが入った肉に「あっさり」という表現は無理があるように思うのですが、おいしく食べるには料理法はもちろんのこと食べる量を調整することです。そして、枝肉から切り出すまで最高の状態にもっていくのが肉屋の仕事だと思っています。質の良い脂を作るのが生産者で、それを見極めおいしく仕立てるのが私たち肉屋の仕事です(料理人も同じですね)。レストランで奮発して和牛を頼んでお腹が痛くなったという話をよく聞きますが脂の質がよくないのでしょうね。よく考えれば分かることですが、サシは脂ですからたくさん食べたり、管理が悪くて酸化したものを食べればお腹を壊す可能性は当然ながらあります。特に普段から食べ慣れていない人が食べれば体が驚きますよ。
私がサシの多い肉を仕入れたときは、まずフレッシュの状態で食べてみて、すぐに骨を抜いて精肉にするのか、枝肉のまましばらく枯らすのか。肉に応じてあらゆる方法を考え、実行していきます。写真のサーロインはフレッシュのときはサシがくどくて試食時は80gでギブアップでした。ところが1ヵ月吊るして枯らしたおかげで230gをおいしく食べることができたのです。脂なんて甘くて本当においしくなってくれました。
こういう仕事は日々肉を見て、触って、食べないとなにが正解なのかさっぱりわかりません。偶然おいしくなってくれることもありますし、思い通りにいかないこともあります。一頭づつ個体差が違いますから同じやり方が二度通じることはなく、だからこそ毎日肉と向き合うことが大切なのです。一生懸命に向き合えば牛が応えてくれるのでこの仕事はおもしろい。最近ようやくそんなことを感じられるようになりました。
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