枝肉を寝かせることで旨みが向上するからすき焼きにするとおいしくなるのです
公開日:
:
2015/12/30
近江牛
私が肉の仕事をしだして来年で36年になります。最初の勤め先(というより修行先)はかなり忙しい店で年末なんてレジが間に合わなくてバケツに札が溢れかえっていたほどです。毎日のように捌き(脱骨作業)があり、3年ほどで一通りの仕事を覚えました。ただ、当時の肉屋はお世辞にも品が良いとはいえず、先輩方はくわえタバコで肉を切り、休憩時間には酒を飲み、会話と言えば競馬かマージャン。どこへ行ってもそんな感じで馴染めませんでした。ただ、先輩方は仕事をさせればすばらしい腕の持ち主ばかりだったので、その点では恵まれていたように思います。失敗もたくさんしましたが、最悪なのがヒレとチマキ(スネ)を間違ってミンチに挽いてしまったこと。もちろんひどく怒られました。
当時は真空パックの肉なんてありませんでした(もしかしたらあったのかな?)私が修行していた店は、親方の実家が馬喰ということもあり枝肉のみだった真空パックで流通している存在自体を知らなかっただけなのかも知れません。そんなこともあって、冷蔵庫には常に枝肉が2~3頭ぶら下がっていました。20日~30日程度寝かせてから捌いていた記憶があります。
そのころの名残というわけでもありませんが、やっぱりパーツ仕入れより枝肉がおもしろいですね。年末はとにかく数をこなさなければいけないので、本当はパーツで仕入れたほうが楽なのです。パーツ仕入れとは、ボックスミートといって部位ごとに真空パックされて箱に詰めた肉のことです。問屋さんに部位ごとでオーダーができるのですが、たとえばクラシタとかウデとかモモとか単品でオーダーできるのです。現在は一頭仕入れの枝肉よりボックスミートだと単品で仕入れるほうが主流となっています。
どちらがいいのかは人それぞれですが手間を考えればパーツで仕入れたほうが楽だし商売的にも計算しやすいですね。私の場合は、修行時代に習ったことをいまもやり続けているわけですが、30日程度寝かせると写真のように変色してきます。変色部分は販売する際には削らなくてはいけないので歩留りも悪くなります。
ご覧のようにヒウチの左上と下部分が変色していますが、この部分は削らなければいけません。となるとかなり歩留りは悪くなるので原価がハネ上がります。もちろん早めに骨を外して精肉にすれば変色はしません。それでも枝肉を使い続けるのには理由があります。
真空パックにした肉(いわゆるウェットエイジング)と寝かせた枝肉とではあきらかに香りが違います。私が重要視しているのはまさにこの部分なのです。特にすき焼きにした場合の香りはあきらかに異なります。
さらに、和牛の特徴ともいえる「香り」が肉の旨味にも密接に関係があると思っています。フレッシュの状態、つまり捌きたての生の香り「生鮮香気」は食欲がそそられないのです(あくまでも私の場合です)。加熱調理したときの「加熱香気」に関してもさほど食欲がそそられません。
ところが、30日程度寝かせた肉は、コクがあり火を入れたときに加熱香気が向上されるので味が乗ってくるのです。和牛の良さは見た目もありますが、コクと香りだと思います。だからこそ引き出す最大限の方法をせっかく枝肉で仕入れているのだから歩留りが悪くても使い続けているのです。
てことで、あと1日で肉屋の忙しさからも開放されます。
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