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日仏ブッチャーシェフウデ試し交流会はシャレのようなネーミングとは裏腹に今後の畜産業界を担う若者を熱くするプログラムでした

公開日: : 2016/02/13 イベント

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パリの肉職人「イブ=マリ・ル=ブルドネック」と私の関係は、「同業者」ではなく「共感者」といったほうが分かりやすいかも知れません。私たちの職業「肉屋」は、造り手と食べ手のハブのような存在です。けっして目立つことなく店頭で肉を売ることで生計をたてています。

とまぁ、これは一昔前までの話しです。安全・安心から「より安全で安心」な食を求める消費者にとって、肉屋の存在は絶対だと自負しています。うぬぼれでもなんでもありません。牛を見極めるのが生産者なら肉を見極めるのが肉屋です。私はこんなに楽しくておもしろい仕事はないと思っています。そりゃ力仕事ですし包丁で指を切ることもあります。体力もいりますし頭も使います。けっして楽ではありませんが、それはどの仕事だって同じはず。だったらこの業界にもっと若者が入ってきてもよさそうなものだと思うのです。どの業界もひどい人材不足です。特に農業は後継者問題も含めて新規参入より離農の数が多いのが現状です。

繁殖農家は高齢化し、廃業する農家も増えつつあり、その影響が相場を狂わせています。骨を抜く、いわゆるサバキができる職人も大きく減少しています。人気のレストランさせ人手不足で臨時休業する店もあるくらいです。そういった流れを止めよう、人材不足をなんとかしよう・・・ということではありませんが、若手ブッチャーシェフをどうやって育てればよいか、これが私とイブマリのテーマというかこのお互い10代から業界でお世話になっている恩返しなのです。結果として人材不足の歯止めに貢献できればそれはそれで成果の1つとして、とにかく農家も肉屋もシェフも憧れてもらえるような職業にしたいというのが私たちの願いなのです。

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昨夜は、きたやま南山にて「日仏ブッチャーシェフ “ウデ” 試し交流会」が開催されました。イブマリのもとで1年間の研修をまもなく終了する、研修生第1号のルイマリ(Loumi Martin)とサカエヤで研修中の楠本了平くんが研修の成果を披露するというものです。ウデ試しですから、パリから空輸した骨付きのウデと和牛経産のウデで、日仏のブッチャーテクニックを参加者のみなさまに見ていただき審査員になってもらおうという企画です。その前に、まずはイブマリからフランスで行っている研修制度についての説明がありました。

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続いて、きたやま南山の楠本さんから、私たちがこれから行う研修制度の説明がありました。内容はかなりおもしろいものです。南山の地下に今秋完成予定の研修施設など、わくわくするようなお話をお聞きすることができました。詳細はこのブログでもご案内していきたいと思っています。

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さて、緊張中の了平くんですが、同じ部位を同時に捌くわけです。予想通りでしたがあきらかに手法が違っていました。日本側の「骨を抜く」という技術に対して、フランス側は「魅せる」ということを意識した技術交流でした。日本側は、「とにかく早く、とにかくキレイに」を意識しながら3本の骨を抜いていくのですが、フランス側は、ゆったりとしたリズムで骨を砕いていくのです。

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これははじめてみましたが、ハゴイタ(骨の名前)ごとミスジまで切っていくのです。出来上がりがこちら。骨付きミスジです。

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おもしろいですね。今度プライベートのBBQで試してみます。おそらく日本人の発想では思いつかないでしょうね。なぜなら、すき焼き文化とステーキ文化の違いだからです。

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次いで、骨を抜いた肉をカットし、参加者のシェフたちによる盛り付けがはじまりました(写真は盛り付後)

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この日はこんな人たちも参加してくれました。パリの名店「ル・セヴェロ」のオーナー、ウィリアムと柳瀬シェフ。じつは4月に西麻布にセヴェロ東京がOPENするのですが・・・またその話はおいおいと。

私とイブマリの共通目的でもある、「生産者と共につくりあげる上質な肉と熟成技術」と「人材育成の必要性と業界イメージの向上」はこれからもお互いが行き来しながら試行錯誤していくのですが、きたやま南山を基地とした壮大なプロジェクトが今秋からはじまります。肉の技術研修あり、座学あり、シャルキュトリー研修あり、とにかく肉屋も料理人も南山プロジェクトに注目していただければと思います。

最後に、イブマリからのメッセージです。

 

肉愛好家に送る公開状

世界で絶賛される卓越したフランス肉職人の一人、イブ=マリ・ル=ブルドネックより

人類は、脳が発達するにつれて、また、原始的な群居本能が、分配の精神、資源の管理能力、より進化した形の社会性へと変化して行くにつれて、肉を定期的に消費し始めた。さらに、漁師や家畜飼育者と並んで、食肉の加工やその価値を高める作業を組織立てて行い、またその保存や配給を効率良くするために、肉職人が出現した。

今日、食肉業の世界は、その歴史上最も重要なチャレンジに直面している。私達は、今の生活様式や食習慣の全面的な見直しの必要性を受け止めなければならない。

一方では、食糧を必要とする人類の数が著しく増加していて、2050年には、充分な食べ物を要求する地球の住人が100億人に達する、と解説し、また一方では、予告されたクラッシュを避けるためには、なるべく汚染しないように、BIO(無農薬有機農法)の食品を食べるように、食肉の消費を制限するように、さらに、生き方を考え直すように、と説かれる。

言わば、すでに思春期に入った21世紀が、私達の習慣全てに疑問を持ち、私達の食習慣を強く批判しているのだ。この動乱の中で、肉職人としての長年の経験を私の強
みの一つと考え、二年前にこの道に進んだ
二人の息子、ヤンとポールの側にいてやりたい親心からかも知れないが、私は、予想される将来を、希望に満ちた目で見つめて行きたいと思う。私は、この業界が自らを省みることや、責任感ある、高潔な、熱い心で、その手本とするところをもう一度考え直すことに、どれだけ遅れを取っているか承知している。しかし、私は、そのすばらしい景色や生態系で知られるフランスが、変化に富んだ風味や香りが際立つ最上の食肉を提供するために、組織的に行動できると信じたい。そうすると、人と食肉製品との関係をより人間味のあるものにすることができる、私達のノウハウや製品を輸出する用意が整うのだが。

私としては特に、アメリカのフィードロットが姿を消し、例えば、畜産分野での穀物の消費を低減するための昆虫の幼虫生産を、ヨーロッパ助成金制度がサポートしてくれることを願っている。その時まで、私は、自分の息子達、新世代の肉職人やシェフ、また、意識の高い消費者に、心温まる物語が語れる、味のある理想的なステーキを生み出す努力を続けるつもりだ。

私達の子や孫の糧となる明日の食肉は、もはや生産性・収益性の実績で評価されるものではなくなり、それぞれの地域に結び付いた、合理的な実践経験の成果として捉えなければならないだろう。要するに、優れた食肉は、独自の味や風味だけではなく、生産・販売ルート当事者の情熱やノウハウの存在をも感じさせることだろう。

私は、今年2016年が、生産・販売ルートおよび業界にとって、将来を見据えたひとつの転機となり、これ以上満足できるものはない、と言えるやり方で食肉を生産し、処理し、製品価値を上げ、消費するため、各自が同じ方向に前進して行くことを、切に願うものである。

肉愛好家のみなさん、私について来ませんか。

イブ マリ・ル ブルドネック、肉職人

 

 

※「畜産分野での穀物の消費を低減するための昆虫の幼虫生産を、ヨーロッパ助成金制度がサポートしてくれることを願っている」→ このくだりですが、牛の飼料に昆虫を食べさせるのではなく、鶏や豚のエサとしての昆虫の幼虫だそうです。

 

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