どんなにいい肉であっても職人の技がなければどうしようもない
公開日:
:
2017/01/27
コラム
写真のランプは個体情報が示す通り、昨年の11月10日にと畜後、同月19日に当店に入荷、水分の抜け具合を観察しながら枝肉のまま月末まで冷蔵庫に吊るしておきました。どれくらい水分が抜けたのかは触った感覚でしかないのですが、12月2日の時点で予約いただいていたシェフの好みに近くなったためさらにひと手間かけて送らせていただいたのです。
ゆっくり使っていただけるような仕上げ方をしたのですが、年が明けて1月24日、ご覧の通り瑞々しく赤を主張するように輝いていました。シェフがいかに大切に扱い手当てしてくれたのかが肉質から察することができます。
この牛は、熊本の東海大学阿蘇キャンパスで育ったあか牛(経産)ですが、私が要望したのは再肥育で肉を付けることはせず、枝肉で運んでほしいという2点です。私は生産者じゃないので飼料を含めた環境まで日々チェックすることはできません。できることは、届いた肉を見てどのような手当てをすれば最適なのか、どうすればおいしくなってくれるのか、それを一生懸命考えて実行することしかできないのです。
どんなにいい肉であっても職人の技がなければ肉が持つポテンシャルを引き出せないと常々思っています。私はまだまだその域には程遠いのですが、若かりし修業時代に板場さん(いまでいう店長)が枝肉で運ばれてきた肉を見て、すぐに骨を外して商品化したり、30日くらい吊るして頃合いを見計らったりする姿を見て、すごいなぁと感心したのをいまも鮮明に覚えています。ですから私がいま取り組んでいることは珍しくもなんともなく昔からある技法のひとつなのです。
昨年の11月1日にと畜した近江牛のリブロースです。サーロインを試食したときにフレッシュで使うには旨味が足りなく、吊るして長くひっぱるような肉質ではないと判断してリブロースをドライエイジングで仕上げたのです。こちらもシェフの好みに合うように仕上げたのですが、驚くほど深みのある濃い味に仕上がりました。
私たち肉屋ができることはたかが知れています。生産者が2年、3年かけて育てることを思えば数週間~数か月のことですから素材がいかに重要かということになります。しかし、その素材を生かすも殺すも肉屋の技術だと思っています。料理人にしたって肉を知っている方とそうじゃない方とでは同じ肉でもまったく違うものになってしまいます。だからこそシェフの好みに合わせられる技術が必要なのです。
まだまだ、まだまだ・・・技術に終わりはないのです。
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